新技術ウォッチャー・酒井が、1週間のテック業界ニュースから注目のトピックを解説・分析するシリーズ。
5月29日〜6月4日の1週間は、新しいVR/MRヘッドセットの発表からAIの話題、新しいNFTサービスまで盛りだくさんだった。
目次
MR対応「Meta Quest 3」発表。価格は「Pro」の約1/2
6月1日(米国時間)Meta社の新しいヘッドマウントディスプレイ「Meta Quest 3」が今秋発売されると発表された。同デバイスの登場は以前から噂されていたが、いよいよ正式に発表された形だ。
価格は128GBモデルで74,800円で、より詳細な情報は今年9月27日(米国時間)に開催される「Meta Connect」で発表される予定となっている。
Meta社は、上位モデルのVR/MRヘッドセット「Meta Quest Pro」を昨年11月に発売している。こちらは値下げされた現在でも159,500円とかなり高額だ。
普及モデルとしては初のMR対応ヘッドセットとなる「Quest 3」はProに肉薄するのか、あるいは明確な性能差を感じるものとなるのか。発売直後の20万円超だった時期にQuest Proを購入してしまったユーザーとしては非常に気になるところだ。
売買やギフトも可能!「NFT電子書籍付」新書発売
株式会社早川書房と株式会社メディアドゥは6月1日、新レーベル「ハヤカワ新書」創刊ラインナップ全5作品で、新書の本編と同じ内容が収録された「NFT電子書籍」がセットで付く「NFT電子書籍付き新書」を発売した。
NFT電子書籍は、NFTプラットフォーム「FanTop」を通して他のユーザーと売買することが可能で、その利益は権利者へ分配される仕組みとなっている。電子書籍の二次流通において、出版社や著作権者などの権利者に対して継続的に収益を還元できるプラットフォームの実現をめざすという。また、FanTop上の「ギフト機能」を使ってNFT電子書籍を他のFanTopユーザーにプレゼントすることも可能だ。
電子書籍は、読み終わったものを人に譲ったり、おすすめ本を貸し借りしたりできない点が難点だった。権利者への還元をしっかり担保しつつ、読者側にとってのメリットであるこれらの機能を実現することは、両者にとって恩恵となりそうだ。
メディアドゥ、世界初の「NFT電子書籍」付き新書を早川書房新レーベル「ハヤカワ新書」創刊ラインナップ5作品で提供
価格コム、じゃらん、駅すぱあと…定番サービスにAI続々
今週も新しい話題に事欠かないAI関連。定番サイトや老舗サービスに、対話型AIを活用したサービスが続々と登場した。
商品比較サイト「価格.com」は、ChatGPTで商品を探せるプラグインの提供を6月2日にスタート。プラグインを有効にした状態で探したい商品の種類や予算をチャットに入力すると、おすすめの商品が提案される。
また、旅行案内サイトのじゃらんは、チャット形式で条件を指定することで宿を探せる「AIチャットでご提案」のベータ案をじゃらんのサイト内で提供開始。チャットの解析・回答にはChatGPTと同じGPT言語モデルを利用する「Azure OpenAI Service」が採用されている。
そして、乗り換え検索の「駅すぱあと」は、「温泉」「ミュージアム」などの目的地と出発的、移動時間などを指定することで、条件に合った施設がある駅までのルートを提案するChatGPT利用の新機能「お出かけAI(β版)」を5月31日にリリースした。
これらのツールは、従来の検索のように自分で細かい条件を選択して絞り込むのではなく、「ざっくりとした要望」を伝えるだけで求めている情報を得られることがメリットだ。また、駅すぱあとは選択肢から条件を選ぶ形式となるものの、他の2サービスはチャット形式で人に相談するような感覚で利用できる。
そういえばインターネットのなかった時代は、旅行に行くときは旅行代理店の窓口で相談しながらプランを練っていたし、駅で電車の乗り継ぎ方法が分からなければ駅員さんに教わって切符を買っていた。商品購入も実店舗が当たり前で、選択に迷ったときは近くにいる店員さんをつかまえて質問していた。つまり「人にざっくりとした要望を伝え、会話を通して相談しながら決める」ことが当たり前だったのだ。
今でももちろん旅行代理店での相談はできるし、駅で困ったときに頼りになるのは有人窓口だ。家電量販店のスタッフも質問すればいろいろと教えてくれる。とはいえ、どこか「人に聞く前にネットで調べる」が当たり前という風潮になり、「聞きたいけれど聞きづらい」という人も増えているかもしれない。
従来型の検索は、「自分は何を求めているか」が明確になっている場合には便利な一方で、「ざっくりとした要望」に応えることは得意ではない。条件指定が甘いと検索結果が多岐にわたりすぎて、結局選べなくなるためだ。
対話型AIを活用したサービスの広がりは、そんな「あいまいな要望に応えてほしい」「人と会話しながら決めたい」というニーズに応えてくれるものとなってくれそうだ。
AIは危険?サム・アルトマン氏が共同声明に署名
一方で、AIの急速な発展と普及にともなうリスクを懸念する声も強い。
AIの安全性に関する研究を行うアメリカの非営利団体「Center for AI Safety」(CAIS)は、AIがもたらすリスクについての声明文「Statement on AI Risk」を発表。署名にはChatGPTの提供元であるOpen AI代表のサム・アルトマン氏の名前もあり、大きな話題を呼んだ。
AIのリスクについて慎重に議論し、必要な対策を講じることはもちろん不可欠だ。国レベル・国際レベルの話は専門職の方々にお任せするとして、我々一般ユーザーに求められているのは「正しく恐れる」ことではないかと思う。
過剰に危険視してAIを無条件で排除するのは現実的ではないし、「怖いから使わない」という選択は、AIによって得ることのできる多くの恩恵を逃すことになるかもしれない。何がリスクで、何は問題ではないのかを知り、適切な距離の取り方を模索することが必要だろう。