「Apple Vision Pro」の要は「遮断されない」こと、Macの新機能がWeb会議のマンネリを打破する可能性【週刊 テック業界ニュース分析 6月5日〜11日】

新技術ウォッチャー・酒井が、1週間のテック業界ニュースから注目のトピックを解説・分析するシリーズ。2023年6月5日〜11日の1週間でのビッグニュースといえば、やはりApple関連だ。

「Apple Vision Pro」の要は「外界と遮断されない」こと

何年も前から出る出ると噂されていたAppleのXRゴーグル「Apple Vision Pro」が、5日(現地時間)のWWDC2023基調講演で発表された。ただしAppleはVRともMRともいわず「空間コンピューター」をうたっている。

デモ動画では、空中にアプリのアイコンが浮かび、アプリを開くと大きなディスプレイが出現。その大画面で仕事をしたり、映画を見たりできる様子が公開された。

特筆すべきは、「ゴーグルを付けていても外界と完全に遮断された状態にならない」点だろう。ゴーグル装着時の見え方は、実際の室内空間に仮想ディスプレイが浮かび上がるAR/MR的なものと、自然の風景のなかにディスプレイが浮かぶVR的な「環境ビュー」があり、デジタルクラウンで両者の表示の度合いを調整できる。

さらに、ゴーグル使用中に周囲に人が近づくと、「環境ビュー」が一時的に解除されてその人の姿が表示され、ゴーグル表面には装着者の「目」の映像が表示される。つまり、ゴーグル使用者側は人が近づいたことを認識でき、外の人も相手の表情を読み取ることができるしくみになっている。

 

従来のヘッドセットは、このあたりがウイークポイントだった。VRは現実世界との間が完全に遮断されてしまうし、装着者側からは現実世界が見えているMR(パススルー)モードを使っていた場合でも、周囲の人はそれを認識できないので、「ヘッドセットを装着して“向こうの世界”に入り込んでいる人」と認識するだろう。これが障壁となり、他人がいる空間でヘッドセットを使った作業がしづらいと感じている人もいたかもしれない。

仮にすべての人がゴーグルを装着して仮想世界で生活するような時代がくれば問題ないかもしれないが、当面は「現実世界」と「仮想世界」の両方を行き来しながら作業することが求められる。そういった意味でApple Vision Proの「遮断しない」しくみはとても重要だと感じた。

今回の製品は50万円近い価格なのでそうそう気軽に買える代物ではないが、この先一般ユーザーに手が届く価格帯の製品が登場するようなことがあれば、ゲーム・エンタメ用途以外でのXRデバイスの個人利用が広がる入り口となりそうだ。

Apple Vision Pro

Mac OS Sonomaの「ビデオ会議」がプレゼンを変える?

今回のWWDCは、iOS/iPad OSに新機能が多く、そちらが話題になりがちだが、Mac OSの次バージョン「Sonoma」でもなかなか便利そうなものが発表されている。「ビデオ会議」機能として提供される「プレゼンター オーバーレイ」だ。

共有中の画面と自分の映像を一緒に表示できるもので、表示方法は2種類。大きいオーバーレイでは、共有画面の手前に自分の映像を別レイヤーで表示。リアルな会議室でスライドを投影してプレゼンしているような見え方を再現できる。また、小さなオーバーレイでは、共有画面上に丸く抜かれた小さな映像で自分を表示。画面上を自由に移動しながらプレゼンを行える。

さらに、サムズアップで花火を表示するなど、ハンドジェスチャーで自分の画面に映像効果を追加することも可能だ。なお、両機能とも利用できるのはAppleシリコン搭載Macのみとなる。

ポイントは、これらの機能がZoomなどのサードパーティ製アプリにも提供されることだ。これまでも、各Web会議ツールから似たような機能は提供されてきた。たとえばTeamsでは、共有画面と自分の映像を重ねたり並べたりして表示する「発表者モード」を2021年から提供している。また、Zoomではハンドジェスチャーを使ったリアクションを行うことが可能だ。

とはいえ、「会議のために絶対に必要」という機能ではない故に、「存在は知っているけれど使ったことはない」という人も多かったかもしれない。ツールごとにできること・できないことや操作方法が異なるものを把握して、それを実際に利用するために必要なモチベーションと労力は意外と大きい。

統一された操作方法でツールを問わず使えるようになることで、これらの便利な機能をより気軽に試すことができる環境が整う。Web会議のマンネリ打破に一役買ってくれるかもしれない。

Mac OS Sonoma プレビュー

「Adobe Firefly エンタープライズ版」で企業の画像生成AI活用は広まるか?

Adobeは「Adobe Firefly エンタープライズ版」を8日に発表した。現在ベータ版として公開されている画像生成AI「Adobe Firefly」の企業ユーザー向けという位置づけのサービスだ。

画像生成AIに関しては、法律やルール面の懸念やリスクが大きく、商用利用しづらい現状がある。

現時点で画像生成AIに対して著作権法がどのように適用されるのかについては、文化庁が5月30日に公開した資料「AIと著作権の関係等について」にわかりやすくまとめられているが、学習に関しては「原則として著作権者の許諾なく利用することが可能」とする一方で、生成物に関しては「既存の画像等との類似性や依拠性が認められれば、著作権者は著作権侵害として損害賠償請求・差止請求が可能であるほか、刑事罰の対象ともなる」とされている。

生成された画像が既存の著作物に似ているかどうかを完璧にチェックするのは難しい。また、学習元に使用するのは原則問題ないとはいえ、「もし、学習元に著作権違反の画像が含まれていたら…」という不安は残る。

Adobe Fireflyは、これらの懸念を払拭すべく、「安全性」「透明性」を何より重視している点が他の画像生成AIと大きく異なる。まず、AIの学習元には、同社が提供するストックフォトサービス「Adobe Stock」やパブリックドメインの画像など、著作権的の問題のない画像だけを使用

また、生成された画像には、AI生成物であることを示す「コンテンツクレデンシャルタグ」が付与される。コンテンツクレデンシャル機能とは、日付やツール情報、加えられた編集内容などを画像データ内に記録することでコンテンツの透明性を担保するものだ。

さらに、今回発表されたエンタープライズ版については「アドビから知的財産(IP)の補償を受けることができる」との記載もある。

エンタープライズ版の公開は今年下半期を予定しているとのこと。現在公開中のベータ版は商用利用できないルールとなっているが、エンタープライズ版が公開されればいよいよ商用利用が可能になる。これまで二の足を踏んでいた企業での画像生成活用が広まるかもしれない。

アドビ、「Adobe Firefly エンタープライズ版」を発表

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