記者がアバター生成を体験!「自分そっくりのアバター」がもつ可能性とは?【生活者インターフェース市場フォーラム】

メタバース空間内のコミュニケーションに欠かせないアバター。実際自分とまったく異なる姿になれることが魅力のひとつだが、一方で「自分そっくりのアバター」の活用も多くの可能性を秘めている。

11月14日に開催された「博報堂 生活者インターフェース市場フォーラム」から、リアルなアバターが持つ可能性について考えるセッション「そして、なりたい自分へ ー フォトリアルアバターの可能性と未来」および、会場で実際に体験したアバター生成の体験をレポートする。

自分そっくりのリアルアバターで服を試着

セッションでは、博報堂 エクスペリエンスプラナーの中島優人氏をモデレーターに、株式会社VRC 代表取締役社長の謝 英弟氏と、東京大学大学院情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 准教授の鳴海拓志氏が登壇。

博報堂とVRCは、アバター試着サービス「じぶんランウェイ」を共同開発している。専用筐体で全身をスキャンして自分そっくりのアバターを生成、そのアバターにさまざまな服を着せ、ファッションショーのランウェイのように同時・大量に歩かせることができるというものだ。試着した姿は360度どの方向からも見ることができるため、背後からの姿も確認できる。

鳴海氏は「“自分の体を離れているけれど自分である”という状態をつくることで、自分を客観視できる」と強みを指摘。

謝氏は、「リアルアバターを作る技術は数十年前から存在したが、アバター制作のコストに対してアウトプットのバリューが少ないことから、これまで社会実装のハードルが高かった」と話す。じぶんランウェイでは、撮影に0.2秒、すべてのデータ処理完了させるのに20秒以内と非常に短時間でアバターを生成できる技術を開発した。

「変身」と「分身」によるアバターの効果

では、アバターを使うことには、どんな効果が期待できるのだろうか?

鳴海氏は、自分ではないものになる「変身」と、自分そのまま幽体離脱する「分身」の2種類があるという。

「分身」による効果としてまず挙げられるのは、自分を客観視することでクリエイティブになれる点だという。たとえば、VR空間内でひらめきが必要な問題を解く際に、自分の視点より三人称視点で自分の後頭部をみながら取り組むほうが後者のほうが解釈レベルやひらめき、発想力が高くなるという研究がある。

また、”自分のアバターが熱心に運動していると自分も頑張ろうという気持ちになる”“自分のアバターが他人に暴力を振るっているのをみると申し訳ない気持ちになる”といった「バーチャルドッペルゲンガー効果」もわかっている。

そして「変身」には、「プロテウス効果」「VRパースペクティブテイキング」などがある。

「プロテウス効果」は、“筋肉質のアバターを使うことで、同じ重さのダンベルを持ち上げても軽く感じる”といった、アバターの身体が変わることで自己イメージが変わり、行動や能力にも影響するものだ。

そして「VRパースペクティブテイキング」は、VR空間内で子育てをしながら働く人と、その人に指示する上司がVR空間内でそれぞれ相手に立場を体験して相互の立場を理解するといったものが該当する。

アバターの動きのデータがスキルの承継に役立つ可能性も

セッションでは、データとしてのアバターが持つ可能性についても議論された。

謝氏は「時系列で身体サイズを記録することで変化を可視化でき、健康意識を高めることにも役立つかもしれない」と話す。

さらに、3Dの空間情報と見た目情報をすべて記録することができれば、3次元のアルバムのような記録手段として使うこともできる可能性もあるという。

鳴海氏は「見た目のデータだけでなく、運動のデータも重要になる」と指摘。

「今後、画面上での操作だけでなく、アバターを直接自分の体で動かしてメタバース上で仕事をするようになると、身体の運動のデータが計測・記録されることになる。そのデータをストックして解析し、再流通させることができれば、人から人にスキルのデータをコピーして渡すことが実現する可能性もある」と話す。

リアルアバターで「自分ごと化」できる

では、広告などの表現手法としてアバターを使うことには、どんな可能性があるのだろうか?

「生活者が自分の身体で表現されたものを見ることで、身近なものとして受け取ることができるという仮説がある」と話す謝氏。

たとえばスニーカーのCMに、生活者のリアルアバターがそのスニーカーを履いてオリンピック会場を高速で走る映像を出すことで、その人が自分の可能性を感じられるようにするといった使い方が考えられるという。

これに対して鳴海氏は、「運動学習では、自分に似ている身体特性や外見の人から学ぶ方が獲得が早いことが知られている。今後はそういった効果がいろいろな場所で起こっていくと思う」と同意する。

ただし、その際には「アバターが自己概念とマッチしているか」が非常に重要になるという。たとえば、運動が苦手だという自己イメージを持った人が、自分のアバターがオリンピック選手並みの速さで走る映像を見ても違和感を抱くだろう。

「いかにその人のアイディンティティに合う表現をすることや、そのために理解を深めることが今まで以上に重要になる」とのことだ。

実際にアバター生成を体験!

会場には、「じぶんランウェイ」のアバター生成に使われる専用筐体が設置され、実際に自分のアバターを作ることができた。

多角形の円柱のような形状のブース内に入り、両手を軽く広げた状態で撮影を行うと、間もなく自分の姿そのままのアバターが生成される。

今回の体験では、体験者それぞれが生成された自分のアバターが踊る動画にアクセスできるようになっていた。現実の自分では絶対に不可能なキレキレのダンスを踊る自分の姿が……!

さらに、イベントの最後には、参加者のアバターが集合して、街でダンスをする動画も披露された。

◆ ◆ ◆

リアルな自分そのままのアバターは、ビジネスシーンでのコミュニケーションなど「実物とは異なる姿のアバター」を使いづらい場面でも使いやすそうだ。

そこに実際の自分にはできない動きを加えることができれば、自分の能力が拡張されたようなワクワクする感覚も得られるかもしれない。

「メタバース空間内だけで使う分身」にとどまらない、アバターの持つ可能性の高さを感じることができた。

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